生き物

サイを運ぶ時は逆さづりにする方が健康にいい


生息数増加のために保護した野生のサイを、ヘリコプターを使って逆さに吊るし、本来の生息地から遠くまで輸送する保護活動がアフリカで展開されています。天地逆さまの状態でサイをヘリコプターで運ぶのは「サイの健康状態に悪影響を及ぼす」と考えられていましたが、担架を使ってサイを運ぶよりも逆さづりの方がサイの健康にいいことが判明しました。

THE PULMONARY AND METABOLIC EFFECTS OF SUSPENSION BY THE FEET COMPARED WITH LATERAL RECUMBENCY IN IMMOBILIZED BLACK RHINOCEROSES (DICEROS BICORNIS) CAPTURED BY AERIAL DARTING | Journal of Wildlife Diseases
https://meridian.allenpress.com/jwd/article-abstract/57/2/357/451340/THE-PULMONARY-AND-METABOLIC-EFFECTS-OF-SUSPENSION

Why airlifting rhinos upside down is critical to conservation - CNN
https://edition.cnn.com/2021/03/17/world/rhino-airlift-upside-down-hnk-spc-intl/index.html


クロサイはアフリカ全土に生息しており、1960年代には10万頭以上が生息していました。しかし、サイの角は高価で取引されるため、密猟者による乱獲が後を立たず、1990年代半ばでクロサイ生息頭数はわずか2400頭ほどにまで減ってしまいました。その後、クロサイは懸命な保護活動により、5600頭まで生息数を増やしています。


通常は保護したサイをトラックに乗せて運搬しますが、一部の場所には道路がないため、車で移動することができません。そこで、アクセスできない場所にはヘリコプターを使ってサイを移動することがあります。

実際にクロサイをヘリコプターで運搬する様子を、以下のムービーで見ることができます。世界自然保護基金(WWF)は、絶滅の危機にあるクロサイの生息域を拡大するために、発見したクロサイを麻酔で眠らせて、ヘリコプターで移動させるプロジェクトを行っています。

Black rhinos moved to new home by helicopter | WWF - YouTube


ヘリコプターで移動させる場合、横に寝かせた状態で担架に乗せて運ぶか、足にロープをくくりつけて逆さづりで運ぶかのどちらかの措置が取られます。逆さづりは担架を使う方法よりも速く、簡単で安価に実行できるため、空輸の場合は逆さづりがよく行われます。

しかし、サイを空中で逆さづりにすることが、サイの健康にどのような影響を与えるのかは不明でした。また、「逆さづりは横に寝かせるよりも呼吸が制限され、サイの健康に悪影響があるのでは」という指摘もありました。


そこで、アフリカ南西部のナミビア政府は、コーネル大学獣医学部の研究チームに調査を依頼。コーネル大学のチームは12頭のクロサイを対象に、担架の上に寝かせた状態と逆さづりにした状態で、呼吸量や最大酸素摂取量を計測しました。

その結果、逆さづりはサイの健康に悪影響を与えるどころか、むしろ健康にいいことが判明しました。コーネル大学獣医学部の上級講師であるロビン・ラドクリフ氏によれば、逆さづりにすることでサイの脊椎が伸び、気道が開くので、呼吸量が増えるとのこと。また、横向きに寝かせた場合は、1呼吸ごとに体内に酸素が供給される量が減ってしまうことが判明しました。

研究チームの推算によれば、サイを横向きに寝かせて運ぶよりも、逆さづりのほうが空輸に必要な時間が短縮され、動物の健康も改善されるとのこと。サイは運搬される際、モルヒネの1000倍の強さもある麻酔薬を投与されており、この強力な麻酔薬によって低酸素血症を引き起こすため、空輸の時間が短くなることで動物への負担が少なくなると主張しています。また、サイの空輸には1時間あたり4000ドル(約43万円)の輸送費がかかるため、輸送の準備がわずか数分で終わる逆さづりの方が経済コストも低いそうです。


ラドクリフ氏は「サイの空輸が今後も増加することを認識し、サイ自体の安全性をもっと理解すべきだとナミビア政府には先見の明があります」「自分たちの研究が、絶滅の危機に瀕している動物の保護強化につながることを期待しています。自然保護活動家として私たちにできることは、サイの生息頭数が回復できるように、最高のセキュリティと最高の管理を提供することです」と語っています。

なお、ラドクリフ氏は今後の研究課題として、「空輸自体がサイの脳活動や血流に与える影響を調査したい」とコメントしました。

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in 生き物,   動画, Posted by log1i_yk

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