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夢の新磁石 L1₀-FeNi磁石, part 1

 磁石といえばネオジム磁石!ではありますが、、そんな世を打破すべく、磁石研究者たちは日夜あたらしい磁石材料の研究を行っています。本記事ではそんな新規な磁石材料の中から、ひとつピックアップして紹介していきます。
 この記事では、L1₀-FeNi磁石について、概要と良いところを紹介します。磁石として上手く作ることができているのが一つのグループ(デンソー)のみなので、自然と内容はその発表資料に沿ったものとなります。この資料は日本語で書かれ、きれいなので一読の価値ありでしょう。
 次の記事では、このL1₀-FeNi磁石の製法(一番のおもしろポイント)や、現状の課題について思うことを述べます。
なお内容は、某物理系podcastで喋ったことのあるものです。

まずはざっと

 L1₀-FeNi磁石は、その名の通り鉄(Fe)とニッケル(Ni)からできている材料です。頭のL1₀(エルワンゼロ、と読むはず)は結晶構造の名称で、面心立法格子が縦にちょっと伸びた形で、二種の原子が規則正しく配置していることを指します。(下に結晶構造、デンソー社技報”FeNi 超格子磁石材料の開発とその可能性”より転載)下図のように、上からFe, Ni, Fe,,,と規則正しく並ぶことで初めて磁石として性能を発揮します。
 磁石業界では古くから、作れたらたらいいけど無理でしょと思われていましたが、2017年にデンソーがあっと驚くニュー技術でバシッと作ってしまい、業界を騒然させたことは記憶に新しいですね。

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何が良いの?

 次はこの材料のステキポイントを紹介していきます。

- ネオジムを使わない
 新規な磁石材料の売りといえばコレです。ネオジム原料は産出国が限られているし、昨今の車両のxEV化から需要が減ることはありません。また最近では価格がまた上昇しつつあります。(一応参考資料)そもそも現在でもお高い原料なので、ネオジムを使わない、使う量が少ないというのは立派なアピールポイントです。
 L1₀-FeNi磁石は、半々のFeとNiからなります。地球上での元素の存在量は多い順に、Feが第4位、Niが第23位であり、Niがややレアではありますが、ネオジムの倍以上地球に存在していると言われます。また現在の価格でも、Niがおよそ¥2,000/kgなのに対し、ネオジムは¥15,000/kgと十倍弱の価格です。
 ニッケル、結構高いな、、、ネオジム磁石は主成分がNd2Fe14Bなので、モル比でNdは6%ですが、FeNiはNiが50%・・・。将来ネオジム価格が上がれば勝てそうです。(モル比でなく重量比で議論すべきですが)

- 磁化の大きさが期待できる
 磁化、というのは磁気分極とも呼ぶ用語です。ある物質の磁化が大きい、というのは、その物質に磁場を与えた時に、物質内で磁場(磁気モーメント)が余分にたくさん発生するということです。磁場と同じ向きの磁化を発生させる物質を一般に強磁性体とよびます。なかでも磁石というのは、磁場を与えなくても磁石が磁場を発生させることができる物です。
 単純に言えば、(磁場を自ら作る)磁石を近づけた時にくっつく(磁石の磁場と同じ向き、反対なら反発する訳です)物が強磁性体で、そのくっつき度合いが磁化の大きさということと(多分)できるでしょう。
 常温で強磁性体の単体金属、つまり普段磁石にくっつく金属は意外にも、鉄、コバルト、ニッケルしかありません。L1₀-FeNi磁石は、その限られた常温強磁性体の元素のみからなるので、もちろん大きい磁化を持った磁性体になりそうです!実際、天然に見つかったL1₀-FeNiは、ネオジム磁石に匹敵する性能があることが確認されています

- 高い温度でも磁石のまま
 ネオジム磁石の最大の弱点が高温です。ネオジム磁石は約300℃で磁石としての性能が失われます。(この温度をキュリー温度といいます。)200℃にもなれば、ネオジム磁石の性能は半分以下になってしまいます。ネオジム磁石が使われる高性能モーターでは、その回転数も高く、簡単に100℃を超えてしまうため、この高温での特性劣化はかなりクリティカルな問題です。現状では、ネオジムよりさらに希少な重希土類元素(ジスプロシウムやテルビウム)を添加することで、高温でも特性が保っていられるようにしています。
 さて、L1₀-FeNi磁石はどうでしょうか。デンソーさんの発表(下図)では、なんと400℃でも特性があまり下がらないのです!!これはまじスゴイ。(図中のMsが磁場中での磁化の値、Hcは保磁力です)

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さて、ここまでL1₀-FeNi磁石の良いところを述べてきました。用語の説明もあったりして長くなってしまいました。次の記事では、この磁石の製法、欠点などを書いていきます。

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