東芝と東北大学大学院は2022年3月1日、「サマリウム鉄系等方性ボンド磁石」を開発したと発表した。ボンド磁石として現在一般的な「ネオジムボンド磁石」から、大幅に低コスト化する可能性がある。ネオジム系とほぼ同程度の磁力と、ネオジム系を上回る耐熱性を示したという。

ボンド磁石=磁石粉末を樹脂やゴムに混ぜて成形した磁石。主に車載モーターやハードディスク駆動装置用のスピンドルモーターなどの小型モーターに用いられる。
開発したサマリウム鉄系等方性ボンド磁石
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開発したサマリウム鉄系等方性ボンド磁石
(出所:東芝)

 新開発のボンド磁石は、サマリウムや鉄といった現在のところ安定供給が可能な原料で主に構成される。サマリウムはレアアースに区分されるものの、東芝によれば「余剰資源」で、資源リスクを回避できるという。現在主流のネオジムボンド磁石には、需要が急騰(きゅうとう)中のネオジムが含まれており、長期の安定調達が不確かだった。現に日本における輸入価格を比較すると、ネオジムが約2万800円/kg、サマリウムが約2300円/kgと、ネオジムの方が約9倍も高い(21年12月時点、1米ドル=115.6円換算)。

 ただ、サマリウムを用いたボンド磁石には磁力が弱いという課題があった。そこで東芝と東北大学大学院は、新しい製造プロセスを開発した。まず、サマリウムと鉄の他に、コバルト、ニオブ、ホウ素を原料に使用。これらを合金化し、溶解して、急冷凝固する。その後、独自の熱処理を施すというものだ。このプロセスによって、高鉄濃度の化合物結晶の境目に、ニオブとホウ素を濃縮させることに成功した。

 この技術開発により、「ネオジムボンド磁石と同等」(東芝)まで性能が向上した。磁石のエネルギーを示す最大エネルギー積が98kJ/m3(20℃)、磁力の強度を示す残留磁束密度が0.82T(20℃)だという。残留磁束密度の温度依存性を調べたところ、1℃当たりの低下率が0.06%とネオジム磁石より低く、高耐熱性も確認した。

サマリウム鉄系等方性ボンド磁石の減磁曲線
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サマリウム鉄系等方性ボンド磁石の減磁曲線
磁石を飽和まで磁化させた後に、外部磁界を減少させ、ゼロにした時に磁石に残留する磁束密度「残留磁束密度」が0.82Tだった。(出所:東芝)
残留磁束密度の温度依存性
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残留磁束密度の温度依存性
ネオジムボンド磁石との比較。1℃当たりの低下率は0.06%とネオジム磁石の約半分で、高耐熱性を示す。(東芝)

 この磁石のもう1つのメリットは、レアアース量が少ない点。従来のネオジム合金には、ネオジムが13原子%含まれていたが、こちらにはサマリウムが6原子%しか含まれていない。少ないレアアース量しか要しないことも低コスト化を後押しする。

 東芝は「23年度後半から24年度前半に事業化したい」という。磁石メーカーと連携して、低コストで安定的な製造技術を開発すると共に、磁石性能のさらなる向上を目指す。電動車の駆動モーターなどに載る焼結磁石へのサマリウムの適用も今後、研究開発するという。