2018年8月17日金曜日

第1回『大型書店の本棚全部見る』

前回は前書きがてら、この企画をやるに至った考えを書いた。
→第0回『大型書店の本棚全部見る』
今回は、実際に書店に行ったときの様子を書くことにする。記憶やメモから具体的な本を挙げて紹介もするが、今回はそれほど本を紹介することに力を入れていないのであしからず。


第1回『大型書店の本棚全部見る』レビュー

今回選んだMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店は、地下1階から地上7階までの8フロアで構成されている。本当に、アホみたいに大きい。7階から順に降りるか、地下1階から上がるか、入り口の案内板を見ながら相談。地下1階のコミックはボーナスステージとみなすことにし、最上階の7階から見ようということになった。エレベーターで直接7階に上がる。まだクリアしてないフロアを通ってしまうことになるので、エスカレーターは使うことができない。

本当に片っ端から全部見るので、7階でエレベーターが開いてすぐの棚から見る。海外旅行の時に使える簡単な会話のための本のコーナー、続いて辞書コーナー、小学校受験...。表紙を前面にして並べてある本だけでも相当ある。背表紙を向けて並んでいる本までちゃんと注目する。全書籍を手に取って眺めるわけではないが、背表紙(タイトル)は一通り見る。知らなかった世界が次々に現れ「なるほど」と唸る(何がなるほどなのかわからないが)。全く前に進まない。狂った企画を考案してしまった、と後悔し、その後悔を楽しむ。1人黙って見るのではなく4人いるせいで、互いの気になる本を見せ合ったり議論することができ、妥協がない。


児童書


大きな盛り上がりをみせたのは児童書のコーナーだ。あらゆるトピックに関する児童向けの本が充実している。恐竜や乗り物など子供がワクワクしそうな(という認識が大人の中で構築されている)ものの他にも、『モダニズムって、なんだろう?』や『図解東京スカイツリーのしくみ』『性の多様性ってなんだろう?』など、大人も気になることが子供に分かる図と説明で丁寧に解説されている。漫画で歴史や偉人を学べるし、『よりみちパン!セ』もここにあった。決して子供をバカにしない。知りたいという気持ちがあれば手に取りなさい、あなたを待っています、という作り手の気概を感じた。

途中、子供が欲しがっている本を親が止めている場に遭遇した。「これはまだ難しいからあかん」みたいなこと言われていた。いくら児童書が充実していても、それを買ってあげるのは親などの大人なのだ。辛い。俺が買ってあげたい。

そして絵本コーナーでヤバい本と出会う。『もいもい』である。赤ちゃん用の絵本コーナーで我々を釘付けにした。ヒトの発生過程のような丸い生き物のようなものが黒い背景に浮かぶ強烈な表紙に「もいもい」の文字。中を読んでもそのヘンな生き物と「もいもい」ぐらい書いていない。なんだこれは。実はこの本、大学の研究成果として生後8~13ヶ月の赤ちゃんに対して注目を最も集めた(選択注視法という手法による実験結果)絵を採用しているらしく、実際にその効果から反響が大きいとのこと。生後300ヶ月を超えた我々も見事に釣られてしまった。


学参


学習参考書である。思い出の場であると同時に、最近の若者が如何にして勉強しているのかを知る場でもある。というのも、我々がこのコーナーにあるような参考書を使っていたのは10年ほど前のことであって、実際『ボカロで覚えるシリーズ』なんてネットで動画を見ながら英単語とか歴史とかを覚えることができるらしいし、違うところは全然違う。キャラクターとのコラボなど、見た目でのとっつきやすさをとにかく重視した参考書というのは恐らく昔からあったはずだ。当時全く関わりがなかったので知らなかっただけかもしれない。

「東大に入る子」は5歳で決まる』が置いてある小学受験コーナーには、家のクローゼットの扉の足元のレールにビー玉をひたすら並べまくっていた僕の幼少期を全く思い出させない、異なる世界の本が並んでいた。まあでもやってみるとそれなりに楽しいんだろうなという問題が載ったドリルが置いてあって、でもそうやって「楽しそうでしょ」と子供に押し付けることは良くないような気がするし、並び替えてお話を作りましょうゲームをするためのイラストカードセットが売っていたがこれをやるとどういう子に育つのか分からないし、ビー玉で遊んだことが今の人生のどこに効いているのかわからない(答え:物理の博士課程に行く)。教育とはなんなのだろうか。




語学


英語を使えるようにならなければならない我々にとって英会話や英文執筆についての本を見るのはもちろんだったのだが、この機会にわざわざ立ち寄って見るべきは英語以外の言語のコーナーである。関西弁の語尾や独特の言葉遣いを丁寧に解説している『Colloquial Kansai Japanese まいど!おおきに!関西弁』など、外国語で日本語がどう説明されているのかを知り、『日本人が知りたい○○人の当たり前』シリーズで各国の文化を知るのであった。語学のコーナーはその機能から必然的に海外の文化を知る側面があり、究極的には文化同士の翻訳をするのかもしれない。とかなんとか。


理工(途中まで)


建築コーナーでは『商店建築2018年5月号』の「供養と祈りの空間デザイン」が気になった。現代の価値観において葬儀や礼拝の場をどう提供するか、というサンプルが示されており日本人の曖昧な宗教観を踏まえて見ると興味深い。『コンパクト&コンフォートホテル設計論』では所謂ビジネスホテルと呼ばれてきたホテルがどのように変遷し、そして今どういうデザインが提案・実現されているのか、その詳細が示されている。研究会などの出張で一般的なホテルに泊まることもあり、ホテルについてはより深く注目していこうと思った。今後、これまでわざわざ意識しなかった「場の演出」について、アンテナを張ることになるだろう。


さいごに


結局この日は7階のエレベーター前の棚から始めて6階の途中で終了した。今回見て回ったのは、語学、児童、学参、そして理工の途中まで。どちらかといえば関わりのあるほうの分野だったと言える。14時に入店して途中1時間の休憩を挟んで閉店の22時までいたので、7時間かけて1.5フロアくらいしか見ることができなかった。始める前は何の根拠もなく1日で終わる企画のつもりでいたのだが、始まって1時間ほどが経過したあたりで自分たちがスタート位置と大差ないところに居ることに気付き、笑った。全8フロアあるので、このペースならば企画達成までにあと4回通うことになるだろう。5回シリーズか、恐ろしいな大型書店。

第1回を終えてからも、4人は各自が得た印象やもともと持っていた問題意識や自己の経験をもとにこの企画について議論を重ねている。なぜ我々はこのようなことをしているのか。この企画の意義とは何か、何が楽しくて、やるとどうなるのか。書店が減っていることについて、そして現在の書店の形態の種類と未来の姿。現代社会の空気、教養とは何か。知識の構造。僕がこのアイデアをみんなの前で示したときには想像していなかったほど多様な問題について話し合っている。

今後も、各フロアを歩き進めていくうちにレビューとともに書き記すことにしよう。やっているときはブログに書くかどうか決めてなかったので、書き起こしてみると情報や描写がふわっとしている。具体的な書籍を紹介するつもりもなかったのでメモもしっかりしていない。そのあたり、今回の分はご容赦願いたいし、「私の方がもっと面白くこの企画を実行できる」と思ったあなたは是非同じようにやってみて感想を公開してほしい。

さて、我々は明日また梅田に向かい、第2回を敢行する。6階「理工⑤ 脳科学 進化論 生物学 微生物」の棚から続きを始める。この場で、第2回の内容も報告する。それでは。


→第2回『大型書店の本棚全部見る』へ続く

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